2020年3月に〔このコミュニティは、企業の垣根を越えて、電気エンジニア同士が協力して技術力を高め、問題点を共有し、解決するためのコミュニティです。 日常の業務で困った時、もっと深く知りたいテーマがある時、このコミュニティにお立ち寄り下さい!〕という主旨で「電気エンジニアのための Q&A コミュニティ」が設立されました。 そして、この4年間で、質疑応答が 300項目 になりました。
この 質疑応答300項目 を記念して、旭化成株式会社の加戸良英さんに〔系統解析の重要性を考える〕というテーマで、心に残った事例をご紹介して頂きました。
加戸さんのご投稿は、A4サイズで 9頁 の大作です。 ここでは、第1章〔はじめに〕、第2章〔なぜ系統解析が必要か〕、第4章〔系統解析に対する私の想い〕について紹介します。 第3章〔私の失敗談と成功談〕は、8頁 に亘る非常に貴重な資料です。 第3章を含むご投稿の全文については、〔添付資料: 系統解析の重要性を考える〕をクリックしてご覧になって下さい。(以上、電気エンジニアのためのQ&Aコミュニティ事務局 亀田和之)
第1章 はじめに
この度は、電力系統解析(Power system analysis)について自身の考え、経験等を紹介する機会を与えていただきました。 会社生活では様々な化学プラントの建設や諸設備の技術検討、また保全業務や自家発電設備の運転等も担当させていただきましたが、特に心に残った事例をご紹介し、合わせて自身の想い等もお伝えしたいと思います。
第2章 なぜ系統解析が必要か
この問いに対し、次の前置きをした上で私の考えを整理しておきます。 1960年頃から1970年代初頭までの国内の建設ラッシュ時期、化学工学系の技術者達は、計算尺片手に、今振り返ってもかなり高度な技術検討に取り組んでいました。 当時の検討資料を掘り返して細部を眺めると驚くことが多いです。 さて、私が入社した頃から、手回し計算機に換わって電卓が登場し、その後1980年代になってオフィスに if800 パーソナルコンピュータが並ぶ時代がやってきました。
電力系統解析の入門書として知られている IEEE Std 399 には、今日のディジタルコンピュータの普及を背景に、電力系統解析の目的について次の記述があります(抜粋)。
- 電力システムの計画、設計、運用には、既存および提案されているシステムの性能、信頼性、安全性、経済性を評価するための工学的検討が必要である。
- そして、システムの運用開始前にシステム内の潜在的な欠陥を回避できること。 既存システムにおいては、機器の故障や誤動作の原因を特定し、システムのパフォーマンスを向上させるための是正措置を決定するのに役立つこと。
- 現代の産業用電力システムは複雑であるため、手計算による検討は困難で、退屈で、時間がかかる。 電力に関連する計算タスクシステム検討は、ディジタルコンピュータプログラムの使用によって大幅に簡素化される。
この内容を踏まえ、問いに対する私の回答は下記となります。
- 数十メガワット規模以上の大電力を消費する Oil & Gas、化学、鉄鋼、金属、セメント、紙パ、他のプラント建設においては、前述 IEEE Std 399 の 1. および 2. の目的から、建設担当者としての責任を果たすため、系統解析を駆使する必要が生じることがある。 また、既存生産設備で発生したトラブルの原因究明、対策立案の手段として系統解析が役立つことがある。
- 大容量パワーエレクトロニクス機器や大規模再エネ発電設備が存在する系統構成、さらに、系統規模が大きく長距離ケーブル電路(地中・水中電路)等も存在する条件下では、設計業務において系統解析が不可欠となる場合が多い。
- 海外における建設の場合は、地域 TSO(Transmission System Operator:送電系統運用者)、他の要求により、国や地域における Grid Code、RfG(Requirements for Generators)等の技術的要件を満たすことを検証するため、系統解析を行いその結果を当該機関に提示しなければならない場合がある。
上記3.は、例えば AEMO(Australian Energy Market Operator)の Power System Model Guidelines 等が知られており、ここでは検討過程おける RMS(実効値)と EMT(瞬時値)解析の条件、系統モデル構築手順等が示されています。 再エネやパワエレ機器が存在する場合は、EMT 解析が多く要求されることになります。
第3章 私の失敗談と成功談 =>〔添付資料: 系統解析の重要性を考える〕をクリックしてご覧になって下さい。
第4章 系統解析に対する私の想い
以上の報告を踏まえ私の想いを記載させていただきます。
- 系統解析ソフトは便利なツールではありますが、中身の理解が不十分であれば大きな誤りを招く原因になります。 ・・・ 化学工学分野等で活用されるツールである ASPEN の登場を思い出すのですが、冒頭で述べた、計算尺と図表を駆使してきた昔の化学工学系技術者達が、当時の若い技術者の業務態度を嘆いていました。生半可な理解のまま ASPEN に頼り、時に、あり得ない検討結果を持って来る ・・・ と。
- 他人が行った系統解析は、計算ツールに入力された内容を確認し、その内容が妥当であることを確認すべきです。 直ちに信用しないこと。
- 自身で解析を行う場合、ツールに入力する値、選択すべき諸条件は、全てその工学的意味を理解しておくこと。 分からない項目があれば調査すること。(機器定数の調査、系統構成や運用方法の検討・仮定等は、解析ツールへの入力操作より何倍も時間を要することが一般的です。)
- 系統解析で導かれた解は、自身の計算(手計算結果)と比較し妥当性を確かめること。
- 大容量パワエレ機器や大規模再エネ発電設備の導入が進みつつあります。 我々は、これらをより精密に取り扱うことができる瞬時値(EMT)解析ツールに目を向けるべきです。
(旭化成株式会社 加戸 良英)